「自覚症状しかないムチウチでは後遺障害は認められない」は明確な間違い2019.10.04
「自覚症状しかないムチウチで後遺障害は認められるか」
今回は、この点について確認したいと思います。
先日、交通事故の依頼者が通院していた医療機関に同行し、頚椎捻挫についての後遺障害診断書の作成を依頼しました。
医療機関の医師は「自覚症状しかないのだから後遺障害申請なんて認められるわけない」「文書料が無駄になって終わるだけ」「こんな程度で後遺障害が認められたらほとんどの患者に後遺障害が認められてしまう」等と発言し、後遺障害申請に否定的な発言をしました。私は「自覚症状しかなくても後遺障害14級(9号)が獲得できる場合がある」等と反論しましたが、これに対して「他覚所見がなければ後遺障害14級なんて認められるわけがない」と再反論してきました。
どちらの主張が正しいのでしょうか?どういう場合に頚椎捻挫等のムチウチで後遺障害が認定されるのかを確認してみましょう。
頚椎捻挫等のムチウチによる後遺障害としては、①12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)、②第14級9号(局部に神経症状を残すもの)のどちらかが考えられます。より重い後遺障害が12級13号で軽度な後遺障害が14級9号となります。
12級については、神経学的検査所見や画像所見により、神経症状の発生を医学的に証明できる場合に認められます。
14級については、神経症状の発生が医学的には証明できなくても、受傷時の状態や治療経過等から連続性・一貫性が認められ、説明可能なものであり、被害者の自覚症状が単なる故意の誇張でないと医学的に推定できる場合に認められます。
被害者の自覚症状が単なる故意の誇張でないと医学的に推定できるとまでいえない場合等は非該当となり、後遺障害は認められません。
以上からすると、少なくとも、後遺障害第14級9号については、自覚症状しかなく「神経症状の発生が医学的には証明できなくても、受傷時の状態や治療経過等から連続性・一貫性が認められ、説明可能なものであり、被害者の自覚症状が単なる故意の誇張でないと医学的に推定できる場合」であれば、認定されることになります。また、他覚所見が認められ、「神経学的検査所見や画像所見により、神経症状の発生を医学的に証明できる場合」であれば、後遺障害12級13号が認定されることになります。
後遺障害認定実務上、頚椎捻挫、腰椎捻挫等による後遺障害等級が認定される傾向をご説明致します(以下に述べるものは、客観的な基準ではありません)。
①交通事故の際の衝撃が相当程度のものであることが重要であると考えられています。
四輪車同士の交通事故であれば、軽微な物損事故程度では、後遺障害の認定は困難なことが多いです。
②治療の経過として、ⅰ頚椎捻挫であれば、事故直後から、左右いずれかの頸部、肩、上肢~手指にかけて、脱力感、重さ感、だるさ感、しびれ感が、ⅱ腰椎捻挫であれば、事故直後から、腰部、左右いずれかの下腿~足趾にかけて、脱力感、重さ感、だるさ感、しびれ感の神経症状を訴えていることが重要があると考えられています。
③事故から6か月以上は病院に通院し、更に、病院に一定の頻度で通院することが重要であると考えられています。なお、整骨院・接骨院での柔道整復師の施術は、医師による治療ではありませんから、整骨院・接骨院への通院頻度は後遺障害の認定に当たって、重視されません。
④後遺障害診断書に適切な記載がされていることが重要であると考えられています。特に自覚症状しかない受傷者の場合は、後遺障害診断書の記載がより重要になってきます。
勿論、これらの要素を満たしていても後遺障害が認定されないこともあると思います。しかしながら、これらの要素を満たしているのであれば、後遺障害のうち14級9号を獲得できる可能性は相当程度あると思います。
医師は、医学についての専門家であり、当然、私よりも医学について精通しています。しかしながら、自賠責保険の後遺障害認定実務をどの程度把握しているのでしょうか?後遺障害の認定基準はどの程度把握しているのでしょうか?
勿論、これらについて精通している医師もいらっしゃるのでしょうが、これらを把握している医師はそれほど多くないのではないでしょうか。都内事務所で勤務していた時代も含め、過去、私は、様々な医療機関の作成した後遺障害診断書を目にする機会がありましたが、適切な後遺障害診断書を記載している医師はそれほど多くありませんでした。
①~③を充足する患者でこれまで後遺障害が認められなかった患者がいるのであれば、④の観点で後遺障害診断書の記載が適切になされていないため、後遺障害が認定されなかった可能性があります。
自賠責保険の後遺障害の認定について詳しくない医師も少なくないことは従前から把握しておりましたが、今回の医師面談によって、医師のご自身のそれまでの経験からか「自覚症状しかない場合は後遺障害申請は認められない」等と誤信し、誤った案内をしているケースが存在することが判明しました。
交通事故の受傷者の皆様におかれましては、医師が「この程度では後遺障害は認められない」等と説明している場合でも、弁護士に相談することをお勧めします。