弁護士委任や訴訟等をして慰謝料が訴訟基準になっても賠償額が増額しないケース2019.03.09
交通事故による損害のうち、慰謝料については、被害者が相手方の任意保険会社と直接交渉をすると、自賠責基準を限度にした金額しか提示されないことが少なくありません。巷では、弁護士委任や訴訟等をして慰謝料が訴訟基準(赤本基準、弁護士基準)になれば、賠償額が増額すると言われています。
もっとも、必ずしも賠償額が増額しない場合もあります。
1 被害者に過失がある場合(※被害者に過失がある全ての場合に賠償額が増額しないわけではありません)
例えば、交通事故につき自身に2割の過失のある被害者が、むちうちの治療のために事故から症状固定までの90日間に45日通院し、その際の治療費が50万円(相手方の任意保険会社が直接医療機関に支払済)であった場合を想定してみましょう(※治療費用や治療期間は争わないものとします)。
(1)自賠責基準で算定
自賠責基準の慰謝料は、(45日×2)×4200円で、37万8000円になります。
そして、被害者の過失が7割未満の損害については、自賠責保険では、過失による減額処理をしませんので、最終的に被害者に支払われる金額は、(治療費50万円+慰謝料37万8000円)から支払済みの治療費50万円を控除した37万8000円になります。
(2)訴訟基準で算定
訴訟基準の慰謝料は、通院期間3か月の場合、53万円です。
訴訟基準で算定する場合、被害者に2割の過失がある場合、過失相殺されます。このため、相手方の任意保険会社が賠償しなければならない金額は、(治療費50万円+慰謝料37万8000円)×0.8=82万4000円になります。ここから支払済みの治療費50万円を控除すると、最終的に被害者に支払われる金額は32万4000円になります。
(1)と(2)を比較すると、(1)の方が高額になっていますね。このようなケースでは、弁護士委任や訴訟等をしても、最終的な賠償額は自賠責基準を下回ることになります。なお、任意保険会社は、自賠責基準で算定した金額を下回らないように示談しなければなりません。
2 訴訟等で一部の治療の期間が否認された場合
例えば、交通事故につき自身は無過失の被害者が、むちうちの治療のために事故から症状固定までの90日間に45日通院し、相手方の任意保険会社が直接医療機関に支払済の治療費が50万円であったものの、訴訟で治療内容を争われ、事故と因果関係のある治療は事故から症状固定までの60日間で30日通院した部分にとどまり、治療費として認定できるのは30万円のみ、という判決が確定した場合を想定してみましょう。
訴訟基準の慰謝料は、通院期間2か月の場合、36万円です。
相手方の任意保険会社が賠償しなければならない金額は、(治療費30万円+慰謝料36万円)にとどまります。ここから支払済みの治療費50万円を控除すると、最終的に被害者に支払われる金額はわずか16万円になってしまいます。
なお、自賠責基準で示談をしていれば、最終的な支払金額は(1の場合と同様、)37万8000円になりますので、判決の場合とは、相当な金額差があります。
治療期間が長期に渡る場合や接骨院や整骨院での施術数が多い場合、訴訟等で治療内容や治療期間が争われやすくなりますので注意が必要です。